NIPT

出生前診断は必要?メリット・デメリットからみる家族の選択

妊娠期間中は穏やかに過ごしたいと思っていても、高齢出産の方や過去の妊娠で染色体異常を経験された方などは、おなかの赤ちゃんの健康状態について不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

出生前診断は、そんな不安を和らげ、赤ちゃんの状態を知るための検査ですが、検査を受けるかどうか、どんな検査を選ぶかなど、さまざまな悩みが出てくることもあります。

後悔のない選択をするためには、出生前診断について理解し、自分に合った選択をすることが大切です。

そこでこの記事では、出生前診断についてメリットやデメリット、種類別のメリットとデメリット、出生前診断を受けるべきか迷った場合に相談できる遺伝カウンセリングについて詳しく解説します。

出生前診断について詳しく知りたい方や受けるべきか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。

受ける?受けない?出生前診断という選択

出生前診断は、生まれる前から今後の出産や育児に備えられますが、安心感につながると同時に、検査結果によっては不安や悲しみでいっぱいになるかもしれません。

受けたこと、受けなかったことを後悔しないためには、出生前診断のメリットとデメリットをしっかり理解して選択することが大切です。

出生前診断のメリット

出生前診断の主なメリットは以下の4つです。

  • 赤ちゃんの状態を早く知ることができる
  • 出産や育児への事前準備ができる
  • 妊娠継続の選択を検討することができる
  • 同じ境遇の人とつながりがもてる

一つ一つ詳しく説明していきます。

赤ちゃんの状態を早く知ることができる

例えば、出生前診断のNIPTでは13トリソミー症候群(パトウ症候群)・18トリソミー症候群(エドワーズ症候群)・ダウン症候群(21トリソミー)の3つのトリソミー症候群の可能性を評価できます。

また、羊水検査では赤ちゃんの染色体異常、子宮内感染などを検査し、診断を確定することが可能です。

おなかの赤ちゃんの疾患について早期発見が可能なので早期治療につなげられる点がメリットのひとつです。

出産や育児への事前準備ができる

出生前診断を受けて赤ちゃんに疾患が見つかった場合、適切な分娩方法や時期、出産前、出産後からの治療や療育に向けて準備できます。

また、事前に赤ちゃんの状態が分かっていれば、出産後からの小児科や出産後の医療ケアとの連携がスムーズに行えるでしょう。

多職種の医療・福祉チームが赤ちゃんの状態に合わせて適切な治療・療養計画を立て生活のサポートが可能です。

赤ちゃんの穏やかな生活だけでなく、家族の精神的な負担の軽減にもつながります。

妊娠継続の選択を検討することができる

出生前診断によっておなかの赤ちゃんに重篤な疾患や異常が見つかる場合もあります。

その場合、さまざまな情報を集め、医師とも相談しながら夫婦や家族で妊娠の継続について慎重な検討が必要です。

療育や経済的な問題、すでに子供がいる場合、その子供のケアも含めた生活も考えなくてはいけません。

命の選択という倫理的な問題であるため、正解や不正解はなく難しい問題ですが、夫婦でしっかり話し合える機会ができる、という点はメリットのひとつといえるでしょう。

同じ境遇の人とつながりがもてる

出生前診断の結果によって悩みや葛藤、孤独感が押し寄せることもあるでしょう。

しかし相談窓口のひとつにピアカウンセリングという同じような悩みや問題を抱える方同士がお互いを支え合う活動団体があります。

障害や疾患、療育、リハビリテーションの情報共有だけでなく、喜びや悲しみを分かち合えたり、誰かに心の内を受け止めてもらえる精神的な支えとなる場所です。

一人で悩むのではなく、孤独感を和らげ、前向きな気持ちを取り戻すきっかけにつながる可能性があるでしょう。

出生前診断のデメリット

出生前診断には、メリットがある反面、身体的なリスクや倫理的な問題といったデメリットもあります。

主なデメリットは、以下の4つです。

  • 検査に伴うリスクがある
  • 経済的な負担が大きい
  • 出生前診断は100%の検査ではない
  • 結果によっては、倫理的な決断を迫られる可能性がある

一つ一つ詳しく説明していきます。

検査に伴うリスクがある

クアトロ検査やNIPTは、妊婦さんの血液を採取して検査するため検査に伴うリスクはありません。

しかし、診断を確定する羊水検査や絨毛検査は、妊婦さんのおなかに針を刺して(子宮内穿刺)、それぞれ羊水や絨毛組織を採取する検査で、リスクを伴います。

流産などのリスクが起こる確率は、以下のとおりです。

・羊水検査:およそ 1/300~1/500

・絨毛検査:およそ1/100

参照:厚生労働省 NIPT 等の出生前検査に関する専門委員会報告書 P.2・P.3

経済的な負担が大きい

出生前診断は、保険適用外のため支払いは自費となり、その費用は高額です。

第2回 NIPT等の出生前検査に関する専門委員会の資料の中の「胎児染色体疾患の出生前検査の比較」と出生前検査認証制度等運営委員の各検査の詳細からみると、検査費用の目安は以下のとおりです。

  • 超音波ソフトマーカー検査(NTなど): 5,000~50,000円
  • クアトロ検査(母体血清マーカー):20,000~30,000円
  • NIPT (新型出生前検査):50,000~200,000円
  • 絨毛検査:100,000~200,000円
  • 羊水検査:100,000~200,000円

参照:出生前検査認証制度等運営委員 各検査の詳細

参照:厚生労働省 第2回 NIPT等の出生前検査に関する専門委員会 資料 P.23

上記はあくまでも目安で、医療機関によって費用は異なります。

検査内容によっては追加費用が発生する場合もあり、医療費控除の対象外でもあるので、経済的な負担は大きいといえるでしょう。

出生前診断は100%の検査ではない

クアトロ検査やNIPTなどは非確定的なスクリーニング検査で、診断は確定できず、偽陽性や偽陰性の結果が出る可能性もあります。

絨毛検査や羊水検査で診断の確定が必要です。

また、羊水検査のダウン症候群に関する感度は99.9%とされていますが、羊水検査で異常がなかったとしても胎児のすべての疾患が否定できるものではない、出生後に疾患が分かる場合もあるという理解が必要です。

参照:厚生労働省 第2回 NIPT等の出生前検査に関する専門委員会 資料 P.23

結果によっては、倫理的な決断を迫られる可能性がある

こちらは妊娠継続の選択が検討できるというメリットと背中合わせのデメリットになります。

待ち望んで授かった赤ちゃんなのに「産むか産まないか」「自分が命の選択をしていいのか」という倫理的な決断が必要な問題で、心理的な不安が大きいものです。

また、羊水検査は妊娠 15 週以降に行う検査なので、短い期間で決断しなければいけません。

夫婦間でも意見が異なる場合があるため、一人で悩み苦しむ方や決断した選択が正しかったのだろうかと、おなかの赤ちゃんの胎動を感じながら、大きな葛藤と苦悩を抱える方も少なくありません。

出生前診断の種類別のメリット・デメリット一覧

出生前診断そのもののメリット・デメリットだけでなく、出生前診断の検査の種類によってもメリット・デメリットがあります。

 超音波ソフト マーカー検査クアトロ検査NIPT絨毛検査羊水検査
分類非確定的検査非確定的検査非確定的検査確定的検査確定的検査
対象 疾患ダウン症候群、18・13トリソミーダウン症候群、13・18トリソミー、開放性二分脊椎ダウン症候群、13・18トリソミー染色体疾患全般染色体疾患全般
実施 時期11週頃以降15~20週9~10週以降1~14 週15 週以降
検査 方法超音波検査採血採血子宮穿刺による絨毛採取子宮穿刺による羊水採取
メリット胎児・母体へのリスクなし胎児・母体へのリスクなし胎児・母体へのリスクなし
ダウン症の感度が高い
羊水検査より早い時期に診断可能染色体異常の診断を確定できる
デメリット診断を確定するには確定的検査が必要診断を確定するには確定的検査が必要診断を確定するには確定的検査が必要腹部に穿刺するため、流産・破水などのリスクを伴う腹部に穿刺するため、流産・破水などのリスクを伴う
出生前診断の種類別メリット・デメリット一覧

参照:厚生労働省 NIPT 等の出生前検査に関する専門委員会報告書 P.2・P.3

それぞれの検査の特徴、メリットやデメリットを比較し、医師と相談しながら検査を受けるべきか、どの検査を受けるのかを考え選択しましょう。

厚生労働省の出生前診断の基本的な考え方

出生前診断のメリットとデメリットについて先述しましたが、出生前診断における厚生労働省の基本的な考え方は以下のとおりです。

参照:厚生労働省 「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針」について

出生前診断は、おなかの赤ちゃんの状態を知り、将来の計画や家族の意思決定を支援するもので、適切な情報提供と支援体制の下で実施されるべきものですが、ノーマライゼーション※の理念に基づき、一律の検査は推奨されません。

適切な支援を受けるために、検査の内容や選択に関する情報提供は、妊娠・出産・育児において包括的に行われる必要があります。

正しい知識を持ち出生前診断を受けることや、検査を受ける前後は、十分な説明と遺伝カウンセリングが重要視されています。

※ノーマライゼーション

ノーマライゼーションとは、障害のある人もない人も、お互いを尊重し、地域社会の中で共に生きる社会を目指す考え方のこと

出生前診断を受けるべきか迷ったら…?遺伝カウンセリングで相談を

ここでは、厚生労働省が推奨している遺伝カウンセリングについて説明します。

遺伝カウンセリングのサポート内容

出生前診断において厚生労働省が重視している遺伝カウンセリングは、おなかの赤ちゃんのことや遺伝に関わるさまざまな悩みや不安に対応してくれる、専門家による相談窓口です。

主に大学病院などの大きな病院や、専門の施設などに設置され、検査の種類や特徴、結果の意味について詳しく説明を受けることができ、納得のいく決断をするためや心理的なサポートを受けられます。

染色体や遺伝子、出生前診断について十分な知識や経験を持つ医師(臨床遺伝専門医など)や認定遺伝カウンセラーが担当するため不安な気持ちを打ち明けることができるでしょう。

出生前診断で怖いことは、十分な情報がないまま、不安な気持ちだけで自己判断し、後悔してしまうことです。

・出生前診断を受けるべきか迷っている

・どんな選択をすれば、後悔しない?

・色々な情報がありすぎて、迷ってしまう

・メリットとデメリットを比較しても決断できない

・検査や結果に不安がある

このような気持ちを抱えている方は、遺伝カウンセリングで相談してみましょう。

医師や専門のカウンセラーが、あなたの心に寄り添い、一緒に考えてくれますので、どんな小さなことでも、遠慮なく話してみてください。

遺伝カウンセリングの費用や受けられる場所

遺伝カウンセリングは、出生前診断と同様に保険適用外です。

医療機関によって異なりますが、費用の目安は1時間で10,000円程度とされています。

遺伝カウンセリングを希望する方は、まずはかかりつけ医に相談し、医療機関に問い合わせてみましょう。

遺伝カウンセリングを受けられる大きな病院は、以下のサイトでも調べられますので参考にしてください。

全国遺伝子医療部門連絡会議 登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム(周産期)

参照:出生前検査認証制度等運営委員会 出生前検査について相談できるところ

【まとめ】出生前診断、夫婦で「知って」「納得」する選択を

出生前診断についてメリットやデメリット、種類別のメリットとデメリット、出生前診断を受けるべきか迷った場合に相談できる遺伝カウンセリングについて詳しく解説しました。

出生前診断は、早期に赤ちゃんの状態を知るメリットがある一方で、心理的な負担や倫理的な課題も伴います。

特に近年注目されているNIPTは、採血のみで手軽に検査できる反面、十分な情報収集をせずに検査を受けてしまい後悔する方も少なくありません。

出生前診断は、おなかの赤ちゃんだけでなくその後の家族の生活にも影響する大きな選択です。

検査を受けるかどうか、結果をどのように受け止めるかなど、今回解説したメリット・デメリットを比較しながら夫婦でよく話し合いましょう。

そして、専門家の遺伝カウンセリングのもと「知ること」と「納得すること」を大切に、夫婦が心から納得できる選択をすることが何よりも大切です。

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